“自転車の街”モントリオール入門:インフラと利用の基本をまとめて解説

“自転車の街”モントリオール入門:インフラと利用の基本をまとめて解説 サイクリング
“自転車の街”モントリオール入門:インフラと利用の基本をまとめて解説

「北米のパリ」は自転車にやさしい街

カナダ東部に位置するモントリオールは、トロントに次いで国内第2の規模を誇る大都市です。人口は都市圏全体で約429万人にのぼり、経済、文化、芸術、教育の中心地として多くの人々を惹きつけています。しかしこの街の魅力は、単なる大都市の機能性にとどまりません。かつてフランスの植民地であった歴史を色濃く残し、今なお住民の多くがフランス語を母語とするこの街は、「北米のパリ」とも称されるほど、独自の文化と美意識を育んできました。

石畳の旧市街、ヨーロッパ風のカフェテラス、アートと音楽が息づくプラトー地区など、街を歩くだけでも異国情緒に包まれるモントリオール。そんなこの街で、もうひとつ注目すべきなのが「自転車都市」としての顔です。持続可能な都市づくりを目指すモントリオールでは、自転車を都市交通の中核に据えたインフラ整備が進められており、その規模と質は北米でもトップクラス。観光客にとっても、街を自由に巡る手段として非常に魅力的な選択肢となっています。

そしてこの自転車文化は、地元の人々だけのものではありません。モントリオールでは、住民も旅行者も分け隔てなく、街のサイクリングインフラを活用できます。通勤や通学に自転車を使う人々の横を、観光客がBIXIのシェアサイクルで走る光景は、今やこの街の日常風景のひとつです。自転車は、モントリオールという都市のリズムに自然に溶け込む移動手段であり、同時にその文化や景観をもっとも身近に感じられる旅のツールでもあります。

このブログでは今後、モントリオールでの自転車の楽しみ方をさらに深掘りしていきます。初めての方でも安心して利用できるよう、BIXIのレンタル方法や料金プラン、アプリの使い方をわかりやすく解説していくほか、地元の人にも人気のサイクリングルートや、観光にぴったりの1日モデルコースなどもご紹介していく予定です。

モントリオールの街を、もっと自由に、もっと深く味わうために。自転車という選択肢を、あなたの旅や暮らしに取り入れてみませんか?この街の魅力は、ペダルを踏み出したその先に広がっています。

なぜモントリオールは“自転車の街”と呼ばれるの?

モントリオール市は1980年代から、「自転車にやさしい街づくり」を進めています。最近では、かつては車中心だった都市交通を見直し、より持続可能で安全な移動手段として自転車を都市の主役のひとつに据えるべく、さまざまな政策を加速させています。

モントリオール市のサイトにある自転車道マップ

その中心にあるのが、2022年に始動した「プロジェクト・モントリオール」および「ビジョン・ベロ(Vision Vélo)」と呼ばれる都市計画です。これらの計画では、27年までに200km以上の新たな自転車専用道を整備し、既存のネットワークとつなげていくことが掲げられています。市内19の行政区のうち17区で新設・改良が進められており、街の隅々まで自転車で安全に移動できる環境を整えることが目標です。

また、モントリオール市は自転車専用信号機の設置やラックの増設、冬季の除雪体制の強化など、インフラ面でも着実に改善を進めています。こうした取り組みの結果、20年代に入って市内の自転車利用者数は急増。BIXIというシェアサイクルの登録者数は21年からの2年間で約55%増え、24年には観光客の利用も含めて1300万回以上も利用されたそうです。

このように、モントリオールは「自転車が使える街」から「自転車が暮らしの一部である街」へと、都市全体で大きく舵を切っている最中です。

自転車ネットワーク:最新整備状況と今後の計画

モントリオールは現在、総延長1,083kmの自転車道ネットワークを有しており、これは北米の都市の中でも屈指の規模です。このネットワークは、街の中心部から郊外、川沿いや公園内まで広がっており、日常の移動からレジャーまで幅広く活用されています。

この自転車道ネットワークは、以下のように複数のタイプに分類され、それぞれ異なる目的と安全性を持っています:

🚲 自転車専用道(Pistes cyclables protégées)

歩道や車道とは完全に分離された構造を持つ、もっとも安全性の高いタイプの自転車道です。コンクリートバリアや植栽、ポールなどで明確に区切られており、歩行者や車両との接触リスクが最小限に抑えられています。現在、こうした物理的に保護された自転車道は251km以上整備されており、幹線道路沿いや通勤ルートに多く見られます。

🚴‍♀️ 自転車レーン(Bandes cyclables)

車道の一部を自転車専用に区切ったレーンで、白線や路面標識によって明示されています。ドライバーとの距離は近いものの、489km以上のレーンに視認性の高い案内サインや進行方向表示が整備されており、初心者でも安心して利用できるよう工夫されています。

🚶‍♂️🚴‍♂️ 共有ルート(Voies partagées)

こんな標識をたまに見かけます

歩行者や車と共有するタイプのルートで、交通量の少ない住宅街や公園内に多く設置されています。速度制限や優先ルールが明示されており、ゆったりとしたサイクリングや観光に適しています。

🛣 レゾー・エクスプレス・ベロ(REV)

この広大なネットワークの中核をなすのが、「レゾー・エクスプレス・ベロ(REV)」と呼ばれる高速自転車道網(Express Bike Network)です。REVは、モントリオールの主要幹線道路に沿って整備されており、車道や歩道と完全に分離された構造を持つため、通勤や長距離の移動にも安心して利用できます。最終的には10路線・総延長約60kmのREVネットワークが完成する予定で、すでに「サンドニ通り」など一部のルートは開通済みです。REVは通年利用が可能で、冬季も除雪対象となっており、夜間照明や自転車専用信号なども整備されています。

自転車レーンとよく似ていますがよくみると「REV」の文字が地面に描かれています

このように、モントリオールの自転車道は「どこを走っても同じ」ではなく、目的や安全性に応じて多様な設計がなされています。街の中心部から郊外まで、誰もが安心して自転車に乗れるように工夫されたこのネットワークは、まさに“自転車が暮らしの一部”である都市の象徴です。

❄️🚴‍♂️ 冬でも走れる自転車道の秘密

そして、モントリオールの自転車インフラが本当にすごいのは、冬でも使えるという点です。雪が多く、氷点下の日が続くモントリオールの冬。それでも約740kmの自転車道が除雪され、通年で利用できるよう維持されています。朝の通勤時間に間に合うよう、夜間に小型除雪車が走り、路面を整えてくれるのです。これは、冬でも自転車で通勤・通学を続ける人々にとって、何よりの安心材料となっています。ただし雪が積もっているモントリオールで自転車で走っている人はあまり見かけません

2月のモントリオール。こんなだと自転車に乗りたくないですよね

また、安全性への配慮も徹底されています。交通量の多い道路では、自転車道がコンクリートの壁やポールで車道としっかり分離されており、車との接触リスクを最小限に抑えています。さらに、路面には進行方向や交差点の案内がわかりやすく表示されており、初めてモントリオールを訪れる旅行者でも、迷わず安心して走ることができます。

モントリオールの自転車インフラは、ただの移動手段を超えて、街の文化やライフスタイルそのものを形づくる存在になっています。観光で訪れる人にとっても、そんな街の空気を肌で感じながら走るサイクリングは、きっと忘れられない体験になるはずです。

BIXI:観光客にも優しい、北米屈指のシェアサイクルネットワーク

モントリオールを訪れる観光客にとって、自転車を持っていないことは何のハンデにもなりません。この街には、非営利団体によって運営されている大規模な自転車シェアリングシステム「BIXI Montréal(ビクシー・モントリオール)」が整備されており、誰でも気軽に利用することができます。

2025年現在、BIXIのネットワークはモントリオール市内だけでなく、周辺の12都市にも拡大しており、以下の地域で利用可能です:

  • モントリオール、ウェストマウント(Westmount)、モン・ロワイヤル(Mount-Royal)、モントリオール・エスト(Montréal-Est)、ロンゲイユ(Longueuil)、ラヴァル(Laval)、ブーシャヴィル(Boucherville)、テールボンヌ(Terrebonne)、サント=ジュリー(Sainte-Julie)
  • そして今後追加予定の:シャーブルック(Sherbrooke)、サンテスタッシュ(Saint-Eustache)、ドゥー=モンターニュ(Deux-Montagnes)、サン=ランベール(Saint-Lambert)

この広域ネットワークには、2025年時点で合計12,600台の自転車が配備されており、そのうち3,200台は電動アシスト付き(e-Bike)です。ステーションの数も1,080か所に達しており、モントリオール市内のほぼすべての主要エリアをカバーしています。特筆すべきは、モントリオールがカナダ国内で最大の電動自転車フリートを保有している都市であり、北米全体でも有数の規模を誇るという点です。坂道の多いエリアや長距離移動にも対応できるe-Bikeは、観光客にとっても非常に便利な選択肢となっています。

利用方法は非常にシンプルで、スマートフォンの専用アプリを使って近くのステーションを検索し、QRコードをスキャンするだけで自転車をレンタルできます。支払いもアプリ内で完結するため、言語の壁や現金の心配もありません。1回利用、1日パス、月額パスなど、滞在スタイルに合わせた料金プランも用意されています。

街の景色を楽しみながら自由に移動できるBIXIは、モントリオールの旅をより快適で印象深いものにしてくれるはずです。BIXIの使い方は簡単。別の記事でまとめますのでこちらをご覧ください。

モントリオールで自転車に乗る際のルールとマナー

モントリオールでのサイクリングはとても楽しいですが、安心・安全に楽しむためにはいくつかのルールとマナーを守る必要があります。

🪖ヘルメットの着用

ケベック州では、成人に対してヘルメットの着用は法律上の義務ではありませんが、強く推奨されています。特に電動自転車(e-Bike)を利用する場合は、ヘルメットの着用が義務です。BIXIでも電動自転車をレンタルできますが、ヘルメットを着用しておらず警察官から注意を受けている人をたまに見かけます。
モントリオールでは自転車道でスピードを出すことができるので、ヒヤリとするシーンを時々見かけます。観光で自転車に乗りたい人はマイヘルメットの持参をおすすめします。

🚴‍♂️自転車専用レーンの利用

モントリオール市内には多くの自転車専用レーンが整備されています。歩道や車道を避け、必ず指定された自転車レーンを走行するようにしましょう。レーンには進行方向が決まっているため、逆走は厳禁です。また、歩行者が飛び出してくることもあるため、スピードの出しすぎには注意が必要です。

✋ 自転車の手信号:安全のための小さな合図

モントリオールでは、手信号を使って進行方向や停止の意思を示すことが推奨されています。特に自転車専用レーンでは前後に他のサイクリストがいることが多く、急な方向転換は事故の原因になります。左折・右折・停止の際には、しっかりと手信号を出して周囲に知らせましょう。

🚦 基本の3つの手信号(法令で定められているもの)

動作手信号の出し方タイミング
左折左腕を真横にまっすぐ伸ばす曲がる30m手前から
右折右腕を真横にまっすぐ伸ばす
または左腕を上に直角に曲げる
曲がる30m手前から
停止・徐行片腕を斜め下に伸ばす(手のひらを後ろに向けるとより明確)停止・減速する直前

ポイント:手信号は「動作が終わるまで出し続ける」のが原則ですが、片手運転が危険な場合は安全を優先して短く出すだけでもOKです。

🌙夜間走行とライトの使用

夜間に自転車を利用する場合は、前照灯と後部反射板(または赤色ライト)を装着することが義務です。BIXIの自転車には標準装備されていますが、自分の自転車を使う場合は忘れずに準備しましょう。

違反した場合は、罰金や注意の対象となる可能性があります。

海外生活の“あるある”|自転車用品、実はけっこう高い?

話は少し脱線しますが、カナダで生活していて感じるのが、自転車用品の高さ。特にグローブやライト、ツールなどの小物類は、日本と比べて割高に感じることが多いです。
私自身もモントリオールでサイクリングを楽しんでいますが、ちょっとしたグローブやパーツを買おうとすると「え、これでこの値段?」と驚くこともしばしば。
スポーツ用品を格安に販売することで人気のDecathlonもイートン・センターのショッピングモールに大きな店舗がありますが、品ぞろえがちょっと物足りないです。モントリオールの自転車専門店関連は改めて記事化しますね。👇Decathlon Canadaのリンクを貼っておきます:

👉 Decathlon Canada

日本に帰った時には自転車専門店「Y’s Road(ワイズロード)」に行ってまとめ買いしています。豊富な品揃えと日本価格での購入が可能です。カナダに自転車2台を飛行機で運んだ時には輸送用の段ボールをおすそ分けもしてもらいました。👇 お世話になっているのでリンクを貼っておきます:

👉 Y’s Road公式オンラインストアはこちら

F1のサーキットを自転車で走れるのもモントリオールの楽しみのひとつ

モントリオールで自転車に乗るときの注意点

モントリオールは自転車にやさしい街として知られていますが、走行中に注意すべき点もいくつかあります。特に冬の時期や交通量の多いエリアでは、思わぬ危険に遭遇することもあります。

サイクリングではこんなきれいな風景に出会うことも

まず、冬の凍結や積雪の影響で、道路に穴(ポットホール)や凹凸ができている場所が多く、タイヤを取られたりバランスを崩したりする危険があります。雪解け後の春先は特に路面状態が悪化しやすいため、スピードを控えめにし、路面をよく観察しながら走行することが大切です。

また、自転車専用道であっても、歩行者が誤って進入していることがあり、急に方向を変えたり立ち止まったりすることで衝突のリスクが生じます。特に観光地や公園周辺では、歩行者との距離を十分にとるよう心がけましょう。

さらに、車道と並走するタイプの自転車レーン(bandes cyclables)では、自動車の右折やドアの開閉(いわゆる“ドアリング”)にも注意が必要です。交差点ではドライバーの死角に入らないようにし、アイコンタクトを取るなどして存在をアピールするのが安全です。

そして意外と見落としがちなのが、自転車専用道(pistes cyclables)やREVのような広いルートでも、スピードを出して走るサイクリストが多いという点です。追い越される際に驚かないよう、なるべく右側を走行し、進路変更時には手信号を使って周囲に知らせましょう。

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